『田園の詩』NO.109 「ミカン式」 (2000.2.8)


 数多くある柑橘類の中でも、≪温州ミカン≫は冬の果物の横綱的存在です。『歳時記』
にも「冬の寒い間が盛りで味もよく、火鉢や炬燵に寄り、また窓に降る雪を眺めながら
ミカンの皮をむくのは楽しい」と書かれています。

 「炬燵でミカン」という構図は、私にとっても、子供の頃から現在に至るまでずっと
続けている楽しい習慣です。

 今では、ミカンは一年中あり、初夏の頃にはもう美味しそうに熟れた≪ハウスミカン≫
が店頭に並びます。しかし、私は、農家の人の努力に背くようですが、買いたい気持ちを
グッと押し止めます。ミカンは、やはり、炬燵で食べるのが一番。落語の「目黒のサンマ」
の心境です。

 ついでに、ミカン農家の方に一つ注文があります。経営上の理由からハウスミカンに力
を入れるのは理解できなくもないですが、私としては、元々の出荷時期である冬のミカン
をもっともっと美味しくするよう努力してほしいのです。炬燵で子供達が次から次に手を
出すようなミカンが少なくなった気がします。

 ところで、現在ではミカンは多量に流通していますが、私達が子供の頃にはまだまだ
貴重な品物で充分に食べることはできませんでした。その頃の思い出として鮮明に甦っ
てくるのが小学校の≪ミカン式≫です。

 冬休みが終わって、三学期の始業式の日に子供達全員に数個のミカンが配られました。
まだ珍しいミカンが貰える日なので私達は始業式のことを≪ミカン式≫と呼んでいたの
です。

 この行事は、県内の多くの小学校で行われていたようです。ちなみに京都育ちの女房
に聞いてみたら、「私達はミカンと紅白まんじゅうをもらった」というではありませんか。
ミカン産地の大分県の小学校だけのことかと思っていた私は、上手の出現に参ってしま
いました。


     
     買い出しの途中、ミカン園を見ることがあります。今年は台風の被害もなく豊作の
       ようです。楽しみです。             (09.12.1写)



 今のようなお金のお年玉を貰えなかった時代、ミカンは子供にとって嬉しいお年玉で
した。地域によっては、こんな行事を経験しなかった人もいると思います。≪ミカン式≫
は日本中どのように分布していたのでしょうか。    (住職・筆工)

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